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福岡地方裁判所小倉支部 昭和44年(ワ)533号 判決

主文

被告らは各自原告岡田覚に対し金三二三万六、四二三円および内金二九三万六、四二三円に対する昭和四三年八月二三日から、内金三〇万円に対する昭和四五年六月一七日から、右完済に至るまで年五分の割合による金員、原告岡田ヒフミに対し金三〇〇万一、四二三円および内金二八〇万一、四二三円に対する昭和四三年八月二三日から、内金二〇万円に対する昭和四五年六月一七日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

本判決中、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

たゞし被告らにおいてそれぞれ原告らに各金一〇〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告らは各自原告岡田覚に対し金四一七万九、三四六円および内金三八五万九、三四六円に対する昭和四三年八月二三日から、内金三二万円に対する第三回請求趣旨拡張申立書送達の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員、原告岡田ヒフミに対し金三八四万〇、九七二円および内金三五七万〇、九七二円に対する昭和四三年八月二三日から、内金二七万円に対する第三回請求趣旨拡張申立書送達の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一 昭和四三年八月二一日当時福岡県立八幡工業高校三年生であつた岡田修一は同級生の坂口章三運転のバイクベンリー(九〇CC、芦屋町〈黄〉四七八号、以下単に坂口車という)の後座席に乗り帰途中同日午前一〇時一五分頃国道三号線を八幡区方面から福岡方面に向い進行し、福岡県遠賀郡水巻町頃末小学校前の三叉路交差点にさしかゝりその中心附近において右折信号をしながら右折し徐行中なるところ被告高橋は被告前田所有の普通貨物自動車(福岡四め一五三〇号、以下単に被告車という)を運転し福岡方面から八幡方面に向つて進行し同交差点にさしかゝつたが後記過失により、自車の前部を右折中の坂口車の後部に衝突させ坂口および修一を路上に転倒させ修一に対し頭蓋内出血の重傷を負わせ翌二二日午前四時三九分頃修一を死亡せしめた。

二 被告らは次の理由により本件事故により生じた修一および原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(一)  被告前田は被告車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法第三条による責任又は被告前田は運送業者を営むところ被告高橋はその被傭者にして被告前田の業務執行につき前記事故を惹起したのであるから被告前田は民法第七一五条による使用者責任を負うべきである。

(二)  被告高崎は前記交差点にさしかゝつた際右交差点は平坦且つ舗装された見通し良好な場所であるから前方を注視すれば右交差点内において右折の合図をし右折進行の態勢に入つて待機していた坂口車を発見できた筈であり運転者としては右車を発見すれば坂口車が右折発進するかも知れないことは通常予見可能なところであるから被告高崎としては交差点に入る際対向車、右折車などの動行によつては一時停止できる程度に徐行すべきに被告高崎は前方注視を怠り時速五〇粁の速度のまゝ漫然進行して交差点に入つたため坂口車の発見が遅れて坂口車と衝突したものでありしかも被告高崎は交差点に入らんとするとき坂口車が交差点内で右折進行中であつたことを現認したのであるから被告高崎は右坂口車を優先進行させるため自車を直ちに停車させるべきであつた。仮に被告車の進行状況から急停止ができなかつたとしても対向車および後続車もなかつたので自車の進路を直ちに変更し坂口車との接触を回避することが可能であつたにも拘らずその措置をとらなかつたことが本件事故の原因をなしているので被告高崎は民法第七〇九条によりその責任を負うべきである。

(三)  仮に被告らにその責任が発生しないとしても同人前田は原告らに対し昭和四四年一月頃損害賠償として金五八〇万三、四八四円の支払を認めたのでその支払義務がある。

もつとも被告前田はその直後右約定を一方的に取消す旨申入れたがその取消原因となるべき正当な事由は存在しないので被告前田の右支払義務は消滅するものではない。

三 損害

(一)  修一の損害

(1)  給与についての逸失利益

(イ)  修一は前記のとおり本件事故当時高校三年であつたが昭和四四年三月卒業の上同年四月から新日本製鉄株式会社(当時八幡製鉄株式会社、以下単に新日鉄という)に勤務することに採用決定されていたので修一が稼働した場合初任給は常昼勤で月金二万五、九〇〇円、三交替勤務で月金三万六、〇〇〇(そのいずれに勤務するかは将来決る予定)であつて、五五才の停年退職までの昇給率は規定はないものゝ昇給の事実は確定的であり昭和四二年度産業別の企業規模および年令階級別給与表(総理府統計表)によれば製造業(従業員一、〇〇〇人以上の業者の場合)に稼働する男子の給与は一八才から一九才まで金二万三、五〇〇円、二〇才から二四才まで金三万〇、六〇〇円、二五才から二九才まで金三万九、五〇〇円、三〇才から三四才まで金四万九、〇〇〇円、三五才から三九才まで金五万八、四〇〇円、四〇才から四九才まで金六万八、一〇〇円、五〇才から五九才まで金七万二、三〇〇円となるが右各階級の平均は一ケ月金四万八、七七一円となるので一ケ月の平均消費支出費用をその五〇%として控除すれば一ケ月の純収得は平均二万四、三八五円となる。そこで修一が稼働する昭和四四年四月(一八才)から満五五才の一月三一日まで(修一は一月一七日生れで退職の月は一ケ月分の給与が支給される)の三六年一〇ケ月間を就労可能年数とみて前記収入額による右期間の総収入から年五分の割合による中間利息を控除して算定すると金六一〇万四、二九七円となる。

2万4,385円×250.33003358(法定利率1ケ月9/12%、期数442の単利年金現価率)=610万4,297円

(ロ)  しかも事故当時一七才の修一は昭和四一年簡易生命表によれば同人の平均余命年数は五三・六〇年あり退職しても八ケ年は就労可能で前記総理府統計表によると六〇才以上の平均収入は一ケ月金三万八、四〇〇円であるところ一ケ月の平均消費支出費用は五〇%として控除すれば一ケ月の収入は金一万九、二〇〇円となるので右八年間の総収入額から年五分の割合による中間利息を控除して算定すると金六〇万〇、二四八円となる。

19,200×12×(23.23071724-20.62547115)=60万0,248円

(2)  賞与についての逸失利益

新日鉄では昭和四四年における一年間の賞与支給基準は前記平均給与たる一ケ月金四万八、七七一円の収入者に対しては一ケ年金一四万六、一〇〇円(中元賞与金五万九、九〇〇円、年末賞与金八万六、二〇〇円)であつたので修一は停年退職までの三六年一〇ケ月間少なくとも右平均額以上の賞与を受領したと考えられるので一ケ月の平均消費支出費用を五〇%として控除すれば金七万三、〇五〇円が一ケ年の収入となり右期限の総収入より年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金一四八万一、〇五九円となる。

73050×20.27459395=148万1,059円

(3)  退職金についての逸失利益

新日鉄では前記収入の者が停年退職時において受領する退職金は金五七三万三、六〇〇円であるが給与生活者にとつて退職金は唯一の純資産として残することを心掛けているので右全額を純利益として考えるのが相当であるからこれにホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除すれば金二〇四万七、七一四円となる。

〈省略〉

(4)  慰藉料

修一は本件事故により悲惨な死をとげその精神的苦痛は図り知れないものがあるのでその慰藉料は金三〇万円をもつて相当とするところ原告岡田覚、同岡田ヒフミは右修一の両親であつて相続人であるから修一の前記損害賠償請求権金一、〇五三万三、三一八円の各二分の一である各金五二六万六、六五九円をそれぞれ相続により取得した。

(二)  原告らの損害

(1)  原告覚は修一の葬儀のため金一五万円を治療費として金一三万八、三七四円を各出捐し各同額の損害を受けた。

(2)  慰藉料

原告覚および同ヒフミは修一の父母であり、同人の就職も決定しその成長に期待をかけていたが同人の本件事故による死亡により甚大な精神的苦痛を受けその慰藉料として原告らの慰藉料は各金一〇〇万円をもつて相当とする。

(3)  弁護士費用

被告らは和解にも応じないので原告ら訴訟代理人に本訴提起追行を委任し手数料、謝金として原告覚は金三二万円を原告ヒフミは金二七万円を要したがこれは本件事故により蒙つた損害である。

四 損害填補

原告覚、同ヒフミは強制賠償責任保険金として金五三九万一、三七四円(訴外坂口章三と被告高崎の共同不法行為なりとの認定により双方より受領した合計金)を受領したのでこれを前記相続分に従つて各金二六九万五、六八七円づゝ原告らの前記損害額に充当する。

よつて被告らに対し原告覚は金四一七万九、三四六円および弁護士費用を除く内金三八五万九、三四六円に対する不法行為時後である昭和四三年八月二三日から弁護士費用金二三万円に対する第三回請求の趣旨拡張申立書送達の翌日から原告ヒフミは金三八四万〇、九七二円および弁護士費用を除く内金三五七万〇、九七二円に対する不法行為時後である昭和四三年八月二三日から、弁護士費用金二七万円に対する前記拡張申立書送達の翌日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べ、

被告らの訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として

「一 請求原因第一項の事実中、原告主張の日時、場所において原告主張の事故があつたことは認めるが被告高崎の過失は争う。

二 第二項は争う。本件事故は被告らに自動車運行上の過失はなく右は専ら修一が同乗していた単車の運転者訴外坂口章三の運行上の過失により惹起されたものである。

被告高崎は被告車を運転して福岡方面から北九州方面に向け時速約五〇粁で進行し本件事故現場の交通信号のある交差点にさしかゝつたところ当時右現場附近の交通量は頻繁で対向車は間断なく通行していた。被告高崎は右交差点の信号が青信号であつたためそのまゝの速度で交差点に進入したが右交差点は国道三号線と水巻方面への県道が交差する三叉路で坂口車は北九州方面から水巻方面に向うため右交差点で右折していたのであるが右交差点で右折する場合交差点中央部の停止線個所の道路中央線寄りの所に停車し国道上下線が赤信号のときは右折すべきところ坂口車は交通量が激しいため右折停止個所に近寄れずそのまゝ道路左端を通行し所定の右折方法に違反して右折を開始したもので被告高崎は前方約一六米の中央線附近を右斜めに道路を横断する坂口車を発見し直ちに急停車の措置をとつたが間に合わず坂口車に衝突したものの被告車は時速五〇粁の速度のため発見地点より約一六米進行して停車したが前記速度の車がその停止距離を要することは避けられず、ましてや当時の対向車の間断なき通行状況から坂口車が中央線附近に出てくる以前において、それを発見することは不可能な状態でその上前記の如き右折方法違反してくる坂口車を予想しこれに対応する万全の措置をとることなど全く期待できないもので坂口車の発見と同時に急停車の措置をとつた被告高崎には何らの過失もない。

三 第三項は争う。

四 仮に被告前田の運行供用者としての責任が認められるとしても本件事故は前記のとおり坂口の過失によつて惹起されたもので被告らには過失がなく被告車についても構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたのであるから被告前田はその責任を免れるものである。」

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  本件事故発生にかゝる請求原因第一項の事実中、被告高崎の過失の点を除きその余の事実は当事者間に争いがない。

そこで被告らの責任について判断するに〔証拠略〕によれば本件事故現場は幅員一二・二米の北九州市と福岡間を結ぶ国道三号線と右現場より水巻町方面に至る道路の交差する信号機の設置された三叉路でその附近は直線道路で見通しも良好であるが通常車の通行量が多く、本件事故当日訴外坂口章三は前記坂口車の後部に岡田修一を同乗させて北九州方面から福岡方面に向け右国道を進行し右交差点に差しかゝり同交差点から右折して水巻町方面の道路へ出ようとしたが坂口としては右折するためには道路左側から中央線沿いに進み且つ交差点の中心の直近の内側を徐行すべきところから右交差点の手前道路左側の地点から右折の合図をしながら徐行し国道中央線寄りに進行しようとしたが後続車が連続して進行してくるため道路中央附近に近寄れないまゝ国道三号線の左側をそのまゝ徐行進行し交差点中央附近の道路左端に至つたので同所に停止して坂口は右国道の左(福岡側)右(北九州側)の車の進行を確認したところ国道三号線の進行車に対する信号機は青色信号であり北九州市側から進行してくる車は一時断え、福岡側は坂口車の停車地点より約五〇米前方の地点を交差点に向けて進行してくる被告車を認めたが直ちに右折を開始した場合被告車の直前を横切つて水巻方面への道路の右折できると判断し右折開始して進行し三号線の道路中央線を越えた附近に至つたところ右交差点内に進行して来た被告車と衝突したこと、一方被告高崎は被告車を運転し三号線の国道を時速約五〇粁で進行し前記交差点にさしかゝつたが右交差点の信号は青信号であるため福岡側へ進行する車も右交差点を通過し、約五・六〇米先を進行する先行車も交差点を通過し交差点では水巻方面へ右折するため国道三号線の中央附近で右折待機の車もなかつたので被告高崎は先行車に引続き前記速度のまゝ右交差点に進入しようとしたところ自車の右前方約一五米の地点に道路右側から左側へ進行し水巻方面の道路へ右折のため進行する坂口車を発見したので直ちに急停車の措置をしたが間に合わず被告車を前記坂口車に衝突させ右車後部座席に同乗していた岡田修一を路上に転倒させ頭蓋内出血のため死亡させたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

以上のとおり坂口は前記交差点において右折に際し右折の合図をし、その前からできる限り道路の中央に寄り他の車両に右折することを十分認識させた上で交差点の中心真近の内側を徐行右折すべきであるが前叙説示のとおり坂口は交差点手前の道路左側から右折の合図をして中央附近に寄ろうとしたが後続車が連続したため右中央に寄れないまゝ交差点内に入りその道路左側から北九州方面に進行してくる被告車を前方約五〇米の地点に接近するのを認めながらその直前を横断しうると即断し右折を開始したがその場合坂口としては被告車の通過を待つなど十分に安全を確認した上で右折すべきにこれを怠つたことは坂口の過失というべきであるが北九州方面から来る自動二輪車が水巻方面へ右折するためには前記のとおりの右折方法をとるべきであるとしてもその時の道路の状況によつては後続車の連続のため道路中央に寄れない場合があることは通常予想されるところでかゝる場合には自動二輪車は他の車両や歩行者の通行を妨げることのないよう支障のない範囲で可能な限りの方法をとることも許容されるところであつて被告高崎としては右交差点において右折車両が右折するために待機する道路中央部にその車を認めなかつたので青色信号に従い交差点に進入したとしても右交差点が交通量の多いところであるから坂口車の如く本来の右折場所で右折できず道路右側から自車の直前を通過する車が存在するかも知れないことは全く予期されないところではなく前記のとおり坂口は被告車の進行をその前方約五〇米の地点から発見したので被告高崎においても右交差点内の道路左右の状況にも注意を払えば約五〇米手前から坂口車を発見することが可能であつたというべきで被告高崎は右交差点における右折車の存否につき単に道路中央部のみに注意を払つて進行すれば足るものではなく予め道路左右の車の存否にも注意を払うべきであるからかゝる注意義務を怠つた被告高崎にも本件事故の一因があつたということができる。

ところで被告前田は自賠法第三条但書による免責を主張するが前記認定のとおり本件事故は被告高崎の前記過失が一因をなしている以上その余の事実を判断するまでもなく右主張は採用できない。しかしながら弁論の全趣旨によれば被告らは坂口の過失をもつて過失相殺を主張するものと解され原告らはこれを争うものと解されるのでその点について考えるに、成立に争いのない甲第八号証の六によれば坂口と修一は高校の学友というに止まるので右坂口の過失をもつて被害者側の過失として斟酌すべきではないから被告ら主張の過失相殺も採用しないが右証拠によれば修一は右坂口の運転する坂口車に無償で同乗したことが認められるのでそれは本来修一が受傷した場合その慰藉料額算定につき斟酌すべきところ右修一は死亡し後記認定のとおり修一の慰藉料請求権を否定しているのでその事実は両親である原告らの慰藉料算定について斟酌するのが相当と思料する。

以上のとおり被告高崎は民法第七〇九条により被告前田は自賠法第三条によりいずれも本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

二  修一の損害

(一)  給与賞与についての逸失利益

〔証拠略〕によれば修一は本件事故当時、八幡工業高校機械科三年に在学中にして当一七年七月の男子で新日鉄社員として採用内定し昭和四四年四月一日から稼働する予定であつたこと、右修一は健康な男子で特別の疾患もなかつたこと、修一が就労した場合月間給与額は常昼勤の場合金二万五、九〇〇円であること、右新日鉄の社員は就業規則により原則として毎年四月一日に基本給の昇給がなされる旨規定され昇給の率は明確でないが昇給の事実は明らかで右新日鉄では社員は五五才で定年退職することが認められ、満一七才の男子の平均余命が五一、八四年であることは公知の事実であるから修一は満一八才から五五才までの間新日鉄社員として稼働しその間収入を得ることは明らかであり、初任給が常昼勤の場合月間金二万五、九〇〇円であることは明らかであるがその後の昇給は明確でないので成立に争いのない甲第一〇号証の一、二(総理府統計局編昭和四三年産業別の企業規模および年令階級別給与額表)によれば製造業(従業員一、〇〇〇人以上の場合)に稼働する男子の月間の給与額は一八才から一九才まで金二万三、五〇〇円、二〇才から二四才までは金三万〇、六〇〇円、二五才から二九才までは金三万九、五〇〇円、三〇才から三四才までは金四万九、〇〇〇円、三五才から三九才までは金五万八、四〇〇円、四〇才から四九才までは金六万八、一〇〇円、五〇才から五九才までは金七万二、三〇〇円であることが明らかであるから修一としては少くとも初任給の額が新日鉄の場合よりも低い前記統計表による額の収入を得ることができる上、新日鉄においても基本給は昇給することが明らかで我が国の企業においては年功序列賃金体系が一般であることは公知の事実であるから年令に応じ給与も漸増するが右賃金表の平均をとれば月額金四万八、七七一円となり右収入を得る者の年二回支給される修一の右得べかりし賞与は少くとも金一四万六、一〇〇円であるが利益の算定については前示稼働期間にわたつて生存したならば自己の生活費を支出しなければならないことも当然であるから前示収入額から右生活費を控除することとし、それを全収入額の五割として算定すれば修一は右稼働期間中給与として毎月金二万四、三八五円賞与として毎年金七万三、〇五〇円の純利益をあげたはずであるから右収益からホフマン式計算にもとづき年毎に年五分の割合による中間利息を控除して計算すると給与についての現価は金六一〇万四、二九七円となり、

24,385×250.33003358=610万4,297円

賞与についての現価は金一四八万一、〇五九円となる。

73,050×20.27459395=148万1,059円

(二)  右修一は前記のとおり五五才で退職しても八年間就労可能であると解するのが相当で前記甲第一〇号証の一、二によれば製造業に稼働する男子の月間の給与額は六〇才以上は金三万五、九〇〇円(但し従業員九九人以下の規模の企業において稼働すると解するのが相当である)であるが自己の生活費をその五割として控除すれば一ケ月の収入は金一万七、九五〇円となるので右期間の収入からホフマン式計算にもとづき年毎に年五分の割合による中間利益を控除して計算すると金五六万一、一七〇円となる。

17,950×12×(23.23071724-20.62547115)=561,17000778600

(三)  退職金についての逸失利益

前記のとおり修一は昭和四四年四月一日から新日鉄で稼働することが内定したのであるから本件事故がなければ五五才の定年退職するまでの三六年八ケ月間勤務することができた筈であるが〔証拠略〕によれば修一と同様に新日鉄において定年までの三七年間勤務した者の受ける退職金は金五七三万三、六〇〇円であることが認められるので修一が本件事故に会うことなしに三七年間勤務した後に支給される退職金も右と同額であると解するのが相当であるのでこれに年五分の割合による中間利息を控除すると金二〇四万七、七一四円となる。

(四)  修一の慰藉料

原告らは本件事故により死亡した修一の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料を相続したと主張し生命を害された者の慰藉料請求権の相続を承認する最高裁判所の判決も存在するがもともと慰藉料は一身専属的なものであるから当該請求権の行使のない限りその譲渡性を承認することはできず、一方において被害者の近親者である父母、配偶者、子などは民法第七〇九条、第七一〇条により固有の慰藉料請求権を有するのであるから生命を害された者の慰藉料請求権の相続を認める必要性はないので原告らの右主張は採用できない。

以上のとおり修一の蒙つた損害は合計金一、〇一九万四、二四〇円となる。

ところで〔証拠略〕によれば原告らは修一の父母であつて同人の相続人であることが認められるから原告らはその相続分により修一の損害賠償請求権を相続するのでその二分の一である額は各金五〇九万七、一二〇円となる。

三  原告らの損害

(一)  原告覚の負担した葬儀代等

〔証拠略〕によれば原告覚は修一の遺体運搬のためタクシー代金三万五、〇〇〇円を出捐し同人の葬儀費用として金一〇万円を出捐したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  原告らの慰藉料

〔証拠略〕によれば修一は前記のとおり新日鉄に採用内定し原告らも修一の成長に大いに期待していたので本件事故による修一の死亡により受けた精神的打撃は甚大であるが本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すれば原告らの慰藉料は各金四〇万円をもつて相当とする。

四  損害填補

原告覚は金五六三万二、一二〇円を原告ヒフミは金五四九万七、一二〇円の各損害賠償債権を有するところ原告らは強制保険金五三九万一、三七四円を受領したのでこれを前記相続分により各二分の一を前記損害額に充当とすると原告覚は金二九三万六、四二三円を原告ヒフミは金二八〇万一、四二三円を被告らに対し請求しうることとなる。

五  弁護士費用

〔証拠略〕によれば原告らは被告らがその任意の弁済に応じないので原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、弁護士会所定の報酬範囲内で原告覚は金三二万円を原告ヒフミは金二七万円を既に支払い、原告らが勝訴判決を受けた場合その勝訴額の一割五分の金額を報酬金として支払う旨契約したことが認められるが本件訴訟の経緯その他諸般の事情に鑑み被告らに対し賠償を求めうべき金額は原告覚が各金三〇万円、原告ヒフミが各金二〇万円をもつて相当とする。

そうであれば被告らは各自原告覚に対し金三二三万六、四二三円と弁護士費用を除く内金二九三万六、四二三円に対する本件不法行為の後である昭和四三年八月二三日から弁護士費用としての内金三〇万円に対する第三回請求の趣旨拡張申立書送達の日が本件記録により昭和四五年六月一六日であることが明らかでその翌日である同月一七日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金と原告ヒフミに対し金三〇〇万一、四二三円と弁護士費用を除く内金二八〇万一、四二三円に対する不法行為の後である昭和四三年八月二三日から弁護士費用としての内金二〇万円に対する第三回請求の趣旨拡張申立書送達の日が前記のとおり昭和四五年六月一六日でその翌日である同月一七日から各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて原告らの本訴請求は右認定の限度において正当と認められるのでこれを認容し、その余を棄却すべく訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を仮執行並びに仮執行免脱の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおりと判決する。

(裁判官 松尾俊一)

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